旅立ち

旅立ちというのは、いつも興奮を覚える。

旅の目的は人それぞれであるが、いずれにせよ、惰性的な毎日への別れを意味している。ようやく取れた休暇を利用してのバカンス、長年の夢であった海外駐在、将来への夢を胸に始める留学、あるいはどこかに帰る旅もあるかもしれない。どんな旅にも目的があり、出発の日までに過ごしてきた日々とは違った毎日を期待して旅立つのである。

"Today is the first day of the rest of your life."という言葉を聞いたことがあるが、それを常に意識しながらも行動に移せる人はほとんどいない。実際のところ、多くの人は無駄な時間を過ごして生きている。人生は惰性的であり、退屈だ。退屈な毎日に嫌気を感じながらも、だらだらと毎日を過ごしてしまう。

しかし、そのような日常を変えてくれるのが旅である。
今いる場所から遠く離れた地へ向かう。いわば、日常からの逃避行である。だから、飛行機が離陸する瞬間が一番興奮するのである。離陸してしまえば、誰も自分を捕まえることはできない。自分を捕まえて日常に戻すことは物理的に不可能なのだ。飛行機という閉鎖空間にいながら、途轍もない自由を感じることができるという不思議な感覚である。この逃避行の成功だけでも、旅の目的の半分は達成されたといっても過言ではない。旅立ちは、旅の中でも大きなウェイトを占めるのだ。

旅立つ前は、誰でも期待と不安が入り混じる。
それは惰性的な日々から脱却することへの期待であり、期待が裏切られるかもしれない不安だ。まだ見ぬ新たな日々について色々考えあぐねてしまうが、それもまた楽しい。期待が大きくなるか、不安が大きくなるかは、その人の性格によるところが多いが、必ず期待と不安の両方を皆抱えている。

また、旅の始まりには別れがある。
別れが悲しい場合もあれば、別れが嬉しい場合もある。しかし、それと同じ分、旅には嬉しい出会いと悲しい出会いが待っている。旅立ちとは、つまり、人生におけるプロットなのである。旅を起点として、物語は大きく変化していくのだ。

これから始まる旅も、これまでの私の人生を変えてくるきっかけになるだろう。
さまざまな出会いもあれば別れもある。そして、その先には、また新しい旅がある。
人生という長い道のりは、小さな旅の積み重ねだ。成功もあれば失敗もある。しかし、旅を続けている限り、前を向いて生きていけるのだ。

東京から西へ旅立つと、富士山が見える。
東京から見える富士山とは違ったように映るが、富士山はいつもと同じ場所に佇む。富士山は変わらない。変わるのは自分自身だ。いつも変わらぬ姿で日本を見守っている富士山を飛行機から眺めながら、新たな地での日々を想像してわくわくする。今回の旅立ちも興奮しているが、いつも以上に壮快な気分だ。