グラン・ビア

地下鉄の出口を抜けると、マクドナルドが見える。友人とよく語らった場所だ。当時は本当に金がなく、マクドナルドは空腹を満たしながら仲間と長居するには最適な場であった。今思えば、せっかく欧州の大都市にいるのに、流行りのカフェやバルを楽しまないとはもったいない過ごし方だが、気が置けない友とマクドナルドで語らった時間は今でも大切な思い出となっている。

道路を挟んだ真向かいには、ものものしい雰囲気でテレフォニカ本社ビルが建っている。テレフォニカはスペイン最大の通信会社で、インターネットや携帯電話事業を担っている。元々は国営企業で、民営化される1997年まではスペイン国内の通信事業を独占していた。未だに国内市場で優位性を維持しており、同社の業績が国内経済全体に与える影響は大きい。
傘下にはモビスターという携帯会社があるが、確かにモビスター携帯を持っている友人は多かった。日本で言えばNTTドコモのような企業であるが、モビスターはiPhoneを販売しているので、シェアがどんどん縮小ということにはならないだろう。会社経営において大切なことは、変化に対応できるかどうかである。市場の変化に対して、自らも変化できるかどうか。それがとても重要だ。経済界においても適者生存の法則は成り立つ。過去の優位性に縛られて変化できない大企業は最適者にはなれない。変われるものだけが生き残る。

グラン・ビア駅からカジャオ方面へスーツケースを引っ張っていくと、カサ・デル・リブロという本屋が左手に見えてくる。マドリードで最も大きな本屋で、昔は足繫く通った。といっても、お目当ての本は大体見つからないので、1階奥の注文カウンターでよく本を取り寄せていた。スペインの書物は他の欧州諸国同様に立派な装本で、分厚く重たい。電車の中で読んだら腕が疲れてしまう程だ。ボルシージョと呼ばれる新書サイズの本もあるにはあるが、日本のように薄い紙ではないので、やはり分厚い。大きさは立派なのに、デザインは概してシンプルだ。本棚に並べて楽しめる書物はなかなか見つからない。それがスペインらしさなのかもしれないが、実は本の担い手が少ないだけなのかもしれない。

カサ・デル・リブロの手前の小道に入ると、今夜泊まる宿の入口がある。何度か宿泊したことがあるが、中心街にありながら割と良心的な値段で泊まることができる。決して広くはないが、マドリード観光には便利だ。ポルテーロが部屋までスーツケースを運んでくれたので、チップを渡そうとしたが断られた。まだ22時だったのでバルで一杯飲もうかと思っていたが、ベッドに横になると長旅の疲れがどっと出てきて、気が付いた時には朝になっていた。